アマゾン現役社員の池乃堀正太郎、かく語りき

キャリア磨きに力を入れたい人へのアドバイスです。

エージェンシー理論を論文で読んでみよう。

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前回、エージェンシー理論を使って上司と部下の間に発生する問題を説明しました。その中では、上司のリーダーシップや部下のモチベーションとは関係なく、上司と部下にはそもそも倫理や責任の欠如(理論ではモラルハザードと呼びます)が発生するものであることについて触れました。

今日はせっかくなのでそのエージェンシー理論について具体的な論文でその内容を確認してみたいと思います。取り上げる論文は過去にこれまで取り上げてきているエージェンシー理論をまとめ整理している、いわゆるサーベイ論文と呼ばれるものです*1

”Agency Theory: An Assessment and Review" とGoogleで検索するとPDFの論文が入手できると思うので興味がある方はぜひ手に取ってみてもらえればと思います*2

この論文の著者はスタンフォード大学のキャスリーン・M・アイゼンハルト教授です。『シンプルルール』という有名な本も書いていますし、別の論文でも最優秀論文に選ばれるなど、その線では大変有名な学者のようです*3

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それでは中身を見ていきましょう。といっても実は最初のAbstractに結論が書いてあります。ここを読めばこの論文が伝えたいことが全て分かります。

Agency theory is an important, yet controversial, theory. This paper reviews agency theory, its contributions to organization theory, and the extant empirical work and develops testable propositions. The conclusions are that agency theory (a) offers unique insight into information systems, outcome uncertainty, incentives, and risk and (b) is an empirically valid perspective, particularly when coupled with complementary perspectives. The principal recommendation is to incorporate an agency perspective in studies of the many problems having a cooperative structure.

まず一行目ですが、エージェンシー理論は大事だが、物議を醸しだす理論である、とあります。なぜcontroversial(物議を醸しだす)理論なのかというと、そもそも理論というのは過去の論文で取り上げた知見に別の知見を重ね合わせてできていくので当然なのですが、議論が様々な方向に(時には)取っ散らかってしまう傾向にあるんだと私は理解しています。

なので折に触れてこのようなサーベイ論文というものが出現して過去の主張で言わんとしている本質の部分を整理します。まさにこの論文はその役割を果たしているのでしょう。

論文の結論としては (a)の部分に書いてあるように、情報システム、結果の不確実性、インセンティブ、リスクの視点からユニークな洞察が導かれている、とあります。この点こそ、このサーベイ論文で主張したい本質であり、実務者にとっても有益な箇所となります。それではその内容について触れていきたいと思います。

Agency theory is concerned with resolving two problems that can occur in agency relationships. The first is the agency problem that arises when (a) the desires or goals of the principal and agent conflict and (b) it is difficult or expensive for the principal to verify what the agent is actually doing. The problem here is that the principal cannot verify that the agent has behaved appropriately. The second is the problem of risk sharing that arises when the principal and agent have different attitudes toward risk. The problem here is that the principal and the agent may prefer different actions because of the different risk preferences.

この部分はエージェンシー理論が成り立つ前提を示すものです。前回も触れましたが、理論では契約をメタファー(比喩)に使って、プリンシパル(上位者)とエージェント(下位者)の関係を表現しているとあります。

そしてどういう時に問題が起きるのかという点に触れています。1つ目は、プリンシパルと目標のコンフリクトがあるエージェントが何をやっているか分からない時、そして2つ目には、プリンシパルとリスク感度が違うエージェントが違う行動を起こす時、です。

簡単な例で言えば、例えば、上司が部下の仕事が見えない状態の時や、仕事の成果などに不確実性が伴う時(失敗する可能性がある仕事をやっている時)に、問題が発生するというのです。

ちなみに理論では以下のような仮定を設定しています。このような仮定をつくらないとロジックの組み立てができなくなってしまうからです(数学や物理などに公式があるのと同じと考えて下さい)。

  • 人間=自己中心的、限定合理的、リスク回避的
  • 組織=目標のコンフリクト、完全に情報効率的、情報の非対称性あり
  • 情報=購入可能なコモディティ *4

仮定はどうあれ、とにかく大事なのは、上司が部下の仕事が見えない状態の時や、仕事の成果に不確実性が伴う時、どんな契約を結べば問題が発生しにくいかです。

契約は大きく2つに分かれます。1つは成果型契約(成果に応じて報酬を支払うもの)、もう1つはプロセス型契約(仕事の進め方そのものに応じて報酬を支払うもの)です。

ではその具体的内容に触れていきたいと思います(続きは次回)。

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*1:K. Eisenhardt, "Agency Theory: An Assessment and Review," Academy of Management Review, 1989.

*2:例えば https://pdfs.semanticscholar.org/8488/a9a8c56dd19be9f4e9e7793ed0ded2cd7782.pdf?_ga=2.260185486.2075650114.1605007523-1731446162.1605007523

*3:Eisenhardt, K. M. & Martin, J. A. 2000. “Dynamic Capabilities: What Are They?,” Strategic Management Journal, Vol. 21, pp. 1105-1121. 入山 章栄. 世界標準の経営理論 (Kindle の位置No.5786-5787). ダイヤモンド社. Kindle 版.

*4:情報効率的と同義で、要は情報を入手する手間やコストがかからないということと理解しています