アマゾン現役社員の池乃堀正太郎、かく語りき

キャリア磨きに力を入れたい人へのアドバイスです。

エージェンシー理論を使って上司と部下の問題を考える。

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今日は私がどんな理論に出会ってきたのか。その理論をどうやって実務にあてはめてきたのかについて触れてきたいと思います。理論を説明する前にこのような状況を思い浮かべてみて下さい。

上司:頑張って仕事してね。

部下:今日は上司いないから(見ていないから)テキトーに仕事しよ。

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こんな状況はいろんな場面で起きています。営業部長と営業担当者、工場の係長と担当、ファーストフードの店長とバイト。いろんな立場で上司の思った通りに部下が仕事をしてくれないことは日常茶飯事です。こういった場面に遭遇した時どこに問題があると考えられるでしょうか。

一つすぐ思いつくのはリーダーシップです。リーダーシップ理論については過去触れましたが、上司のリーダーシップによって部下のやる気(モチベーション)に大きく左右することは経験上もよく理解できることだと思います。リーダーシップ*1とは部下のモチベーションや能力を修正することです。放置していたら下がってしまう部下のモチベーションをリーダーシップにより引き上げるのです。

リーダーシップのスタイルは様々です。Aversive Leadership(嫌悪的リーダーシップ)で触れたように、暴力などで嫌悪感を与えることで部下の気を引くのも一つのやり方でしょう。もしくはTransformational Leadership(変革的リーダーシップ)を発揮して上司のカリスマから部下に知的好奇心を想起させモチベーションをUpさせるというやり方もあるかもしれません。

いずれにせよそういったリーダーシップが存在しない場合、もしくはそういったリーダーシップを間違って発揮した場合、部下のモチベーションが下がり上司の思った通りに動いてもらえないと状況を理解することができます。

リーダーシップの重要性は経験的に誰もが知っています。それは学生の時からリーダーシップのあり方で学級(クラス)の雰囲気が良くなったり悪くなったり、またはクラブ活動の監督やキャプテンの存在でチームが粘り強くなったり逆境に打ち勝ったり、、、そういったことを少なからず人生で経験しているからです。

ただしここに落とし穴があります。仕事ではリーダーシップの有無だけで説明できない状況に直面することがあるからです。正しく説明するとリーダーシップが発揮されていたとしても状況や環境によってその効果が強く出たり弱く出たりすることがあるのです。それを学術的にはモデレート効果(Moderate Effect)と言ったりしますが専門的なことは置いておいて、とにかくリーダーシップ以外の要素がモチベーションに影響を与えている可能性があることを知っておくことが重要なのです*2

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そこで、エージェンシー理論(Agency Theory)という経済学をベースにした理論に当てはめて、この問題を取り上げてみたいと思います。エージェンシー理論というのは簡単に言うと上司と部下の間で起きてしまう自明の問題を取り上げるものです。具体的には、上司(理論ではプリンシパルと呼ぶ)と部下(理論ではエージェントと呼ぶ)には、そもそも倫理や責任の欠如(理論ではモラルハザードと呼ぶ)が存在する、というものです。

つまり、リーダーシップの有無に関係なく、組織にはこういった問題がそもそも存在すると、理論では説明をしているのです。

理論を証明するには一定の領域でモラルハザードという問題がプリンシパルとエージェントで存在することを示さなければなりません。そしてそのような問題がどのようなメカニズムで発生しているのかを論理的に説明しなければなりません。エージェント理論は、モラルハザードが発生する原因は、プリンシパルとエージェント間における、①利害の不一致と、②情報の非対称性、が原因と明確に示しています。*3

この理論を拠り所にすると、リーダーシップの有無以外に、視点を傾けるべき領域が見えてきます。1つ目は利害の不一致についてです。上司が仕事を頑張ってほしいと思っていても、部下の仕事に対するモチベーションの拠り所は違っているかもしれません。もしかしたら給料がある程度高くてもプライベートに時間を割くことを重視している部下は仕事の時間をいかに減らすかに重点を置いているかもしれません。そういった利害の不一致が存在することを前提に、例えば人事制度を作る必要があるかもしれません。プライベートの時間をしっかり確保するために仕事を頑張った分休暇を与えるインセンティブなどはその一例です。

また情報の非対称性についても手を打つ必要があります。上司と部下は同じ環境で同じ仕事をしているとは限りません。上司が見ていなくても部下に仕事をしっかりやり遂げてもらうためには勤怠をしっかりつける、仕事の進捗を管理するなどのモニタリングを強化する必要があります。そうすることで責任の欠如をというモラルハザードの問題を解決することができるようになります。

どうでしょうか。理論を用いると視点が広くなるというのはこのようなことを指します。実務の経験上リーダーシップによる問題と決めつけてしまいがちな状況も、理論を用いると点検すべき項目が他にも出てきます。理論は一定の問題を説明することにも役立ちますので、別の場面で問題が発生したとしても理論に当てはめ打ち手を検討することにも使えます。実務をもとに本質を見極まるという視点と、本質(理論)をもとに実務を当てはめるという視点は、第一線で活躍するビジネスリーダーには欠かすことができないものだと思います。

*1:Leadership is an interaction between two or more members of a group that often involves structuring or restructuring of the situation and the perceptions and expectations of the members. Leaders are agents of change - persons whose acts affect other people more than other people’ s acts affect them. Leadership occurs when one group member modifies the motivation or competencies of others in the group. (Bass, 1990, p. 19-20.) *1

*2:このことがこれまで述べた実務から得た経験の深さだけを追求することの限界を示しています。繰り返しになりますが、経験に基づいたものはいくら深ぼったとしても幅が出てこないのです。そこで理論という幅を広げるオプションが登場します。

*3:エージェンシー理論は、企業組織を取り巻く、プリンシパルとエージェントの間で起きるモラル・ハザード問題を説明する。プリンシパルとエージェントの間の「利害の不一致」と「情報の非対称性」が大きい時に、モラル・ハザード問題の可能性が高まる。入山章栄.人が合理的だからこそ、組織の問題は起きる 世界標準の経営理論 (Kindle の位置No.407-409). . Kindle 版.