前回は持論⇒議論⇒自論の関係について説明しました。ポイントは、業務で得た知識や経験といった持論は、議論を通じて他人の知見と組み合わせることで、より汎用性の高い自論に近づけることができる、といったものでした。
今回は深さに対して広がりを持たせるためのアプローチ、持論⇒理論⇒自論の関係について触れていきたいと思います。
転職したことがある方は経験あるかもしれません。前職で通用したノウハウが転職先で全く通用しないといった経験をしたことはないでしょうか。私も一社目から二社目に転職した時にこれを感じ脱力した感に陥った経験があります。
なぜこういったことが発生してしまうのでしょうか。それはそのノウハウが一定の業界、会社、部門に特化しすぎてしまっているからです。ノウハウに深さはあるが広がりがないのです。これを防ぐために今回のアプローチをぜひ覚えていただきたいと思います。
視点としては縦から横です。蓄積した知識や経験(持論)を、業界、会社をまたいで通用するより汎用的なノウハウにするのです(自論)。どうやってそういった広がりを持たせるのか。一つのやり方としては、持論を、いわゆるアカデミックで生まれた理論に照らしあわせ、その本質にまでさかのぼって検討するといいと思っています。これは私の経験からも言えることです。
持論はビジネス上で発生したものですので、理論となると経営理論を参照することになります。後ほど経営理論が学べる本を紹介しますが、ここではなぜ理論が実務に役立つのかについて個人の見解を含め説明したいと思います。
1つ目には理論が持つ特性にあります。実務者には全く知られていないことですが、我々が目にする理論というものはものすごい頭の良い学者が知と知を戦わせて結果生き残ったものです。
理論には膨大な過去の研究の積み重ねによってのみ生まれています。ある研究を踏まえ、その問題を解決するために、新しい研究が生まれ、そして・・とつながっている知の連鎖なのです*1。その結果として生き残った理論は汎用性が高いはずです。高くなければ新しい研究によって刷新されるか、誰にも知られず消滅するか、のいずれかだからです。
2つ目には理論は時代に左右されないという特性を持つからです。時代に左右されてしまうのは理論とは言いません。そういったものを理論とする学者がいれば、別の学者がそれを指摘し、新たな研究が発足し理論が進化していくでしょう(もしくは理論として世間に認知されずに滅びるでしょう)。
詳しくは本の説明に譲りますが、垂直統合やアウトソーシング、アライアンスのあり方を理解するには、Transaction Cost Theory(取引費用理論)という経営理論が役立つと言います。フェイスブックの強さを理解するには、Strengthen of Week Ties(弱いつながりの強さ理論)という経営理論が役立ちます*2。これらは1970年代に生まれた理論です。40年前にすでに理論として議論され尽くされたものが今実務で注目されているのです。
3つ目にこれが一番大事だと個人的には感じるのですが、理論を用いないと思考が深さ(縦)から広がり(横)に伝播しないからです。
この理由は、人間は深さを追求するほうが楽だからです。自分だけで深さを出すことが難しいことは前回触れたことですがそれでも上司や部下など会社にいる人を集めて議論をすれば深さを追求することはできます。一方で広さはどうでしょう。広さは会社の人と議論しても追及はできません。より外部の知見を照らし合わせることが必要なのです。自分が知らないことに気付くことは非常にやっかいです(探求のパラドクス(探索のパラドクス)の問題)。広さを追求するならなおさらです。広さを追求するには自分が知らない外部の知見が必要です。その知見が理論にピッタリくるのです。
理論は多くの議論の蓄積、知の連鎖により成り立っています。議論されていない議論はないかもしれません。逆に言うと私たちの悩みはほぼ議論され尽くしているのです。これを実務者として利用しない手はないでしょう。優秀なリーダーを目指す人はぜひこの事実に気付いて頂きたいと思います。