アマゾン現役社員の池乃堀正太郎、かく語りき

キャリア磨きに力を入れたい人へのアドバイスです。

持論を議論することで深さを磨き上げよう。

前回に引き続き、持論⇒議論⇒理論⇒自論アプローチについて触れてきたいと思います。今回は持論⇒議論⇒自論の関係についてです。持論と自論は造語です。あくまで概念レベルの話ですが、ここではそのイメージをお伝えしたいと思います。

持論は一定業務に対する効果がまだ低いもの(深さがまだないもの)、また適用範囲が狭いもの、と考えてください。一方で自論は深さがあり、適用範囲が広いものです。前回優秀なリーダーには凡人には見えない景色が見えると言いましたが、これは自論をどれだけ持っているかに依るものです。

自論によりある問題が発生しても本質を見抜き起こすべき行動やそのリスクなどを予測することができます。まさにいつか見た景色とは言語化するとこういうことかもしれません。逆に凡人は(例え持論をたくさんもっていたとしても)問題に遭遇した時に過去の経験とは違う景色に見えてしまいます。なので、問題が発生するたびにあたふた一から対応を迫られます。いつでも問題が違う景色に見えてしまうのです。

この概念が成立するかどうかの検証は困難を伴います。優秀な人とそうでない人との思考を数値化、データ化して実証しなければならないからです。今の科学では人が何を考えているかを可視化することができないので、この概念の実証はテクノロジーが進化しない限り難しいことかもしれません。

ただ、同じようなことはいろんな実務者が述べていることです。ここでは代表的な経営者 三枝 匡氏(元ミスミグループ本社代表取締役社長)の言葉を紹介したいと思います。

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われわれは経験や座学の勉強の中から、いろいろなことを学び取るわけですが、その学びというのはあまり複雑な話の形ではなく、本質だけを単純な言葉で抜き取って、自分の記憶の引き出しの中にしまっておくことが大切だと思います。それを私はよく"冷凍保存"という言葉で説明します。単純化された本質的な言葉を、頭の中の冷凍庫に保存しておくという感覚です。その冷凍庫の中には、たくさんの言葉が眠っているのですが、中には霜がついて賞味期限の切れたものもある(笑)。しかし、何か新しい状況に直面して、整理がつけられずにウロウロしていると、ある瞬間、「ひょっとして、あの時に経験したあの問題に似ているんじゃないか」と、昔に冷凍保存しておいた言葉に思い当たることがあるんですね。そうすると、自分の冷凍庫の中に残していた記憶や学びの言葉を取り出して、その時はコチコチに凍っているんですが(笑)、その霜を取り払って、つまり「解凍」し、今の状況に当てはめてみる。

(中略)ですから、何か経験したり学んだ時、簡単な言葉で冷凍庫に保存しておく作業が、後々の自分の能力を高めるために大事だということです。たとえば、何か感情的な経験をした場合でも、些末な出来事は捨て去り、固有名詞が出てこないような、いわば抽象化された言葉にそぎ落として、自分の冷凍庫にしまっておく。それがフレームワーク化だと思います。肝心なのは経験話を、些末な話まで含めてまるごと、冷凍しないことです。人間の冷凍庫はあまり大きくないので、すぐ一杯になってしまいますから(笑)。*1

「冷凍保存」とはまさに言い得て妙だと思います。知識や経験を本質な言葉にカチカチに凍らせて自分の記憶の引き出しに保存しておく、そう知識や経験はひと加工が必要なのです。加工がなければ自論とは言いません。優秀なリーダーはこの知の冷凍という作業に時間と労力をかけていると言っていいと思います。

ただ単純に冷凍といっても自分の力だけで完結できるとは限りません。自分で見えていること、知っていることには限界があるからです。ではどうすればいいのか。議論をするのです。他人と議論をすることで自らで経験したり学んだりしたことに深みが出ます。

議論?!なんだそんなことか、と思われるかもしれませんが、他人と議論することはとても重要なことです。なぜなら、自分が知らないことに気付くことは難しいからです。意外なことかもしれませんが真実です。「探求のパラドクス(探索のパラドクス)」という問題をご存じでしょうか。プラトンが対話篇『メノン』で取り上げたことで有名な言葉です*2

  • あなたが探しているものを知っているなら、探すことは必要ない。
  • あなたが探しているものを知らないなら、探すことはできない。
  • それゆえ、あなたは探索が必要ないか、不可能か、そのいずれかである。*3

自分は何がわからないのかわからないものです。なので他人との議論を通じてそれを知るのです。知ることでより本質に迫ることができます。優秀なリーダーは持論にこういった手間をかけてより汎用的な問題に対処できる自論を持ち合わせているのです。 f:id:ikenobori:20201026205040p:plain

*1:一橋大学 HQウェブマガジン "経営者人材"の育成とは https://www.hit-u.ac.jp/hq-mag/pick_up/260_20180408/

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%8E%E3%83%B3_(%E5%AF%BE%E8%A9%B1%E7%AF%87)

*3:『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』読書猿 (著) P218より抜粋